『スパイの妻』
那覇市にある名画座、桜坂劇場で「スパイの妻〈劇場版〉」を鑑賞しました。
1940年、戦争の足音が忍び寄る時代に、正義を貫いて国家犯罪を告発するか、売国奴扱いを恐れて家庭の幸せを守るか、その狭間で生きる妻と夫の物語です。
注目すべきは、満州国での関東軍731部隊を扱ったこと。
731部隊とは、生物兵器開発のために捕虜や中国人を使った人体実験を繰り返した悪名高き組織。
貿易の仕事で満州に赴いた主人公の夫は、たまたま731部隊の動向を目撃してしまいます。
帰国後、手にした資料とフィルムをまだ開戦前のアメリカに届けるべく、命懸けの行動に出ます。
軍靴の音が高鳴る世の描写は、それが映画だと分かっていても、気分のいいものではありません。
重い、沈痛な、そして恐怖が混ざり合ったような。
なにより、言論や思想の自由がなく、危険人物と見られるや監視され、密告される。
海を隔てた彼の国で今でも続く暗黒の社会が、我が国でも80〜75年前は同じだったことを再認識した映画です。
今世代に戦争メッセージを伝える映画はさまざまです。
戦場そのものを描いたもの。沖縄戦の場合は必然的にそれが多くなります。
先月観た大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館 キネマの玉手箱」は、時空を飛び越えまくって戦争の本質を訴えてきます。
「スパイの妻」は銃後の社会に暮らす市民を写したもの。
「こういう社会に戻りたくない」ことを痛感するには、このような映画は間違いなく必要だと考えます。
[余談]まだ35歳、蒼井優の迫真の演技は見応え十分でした。
沖縄・竹富島を舞台にした初主演作品、「ニライカナイからの手紙」(2005年)でのあどけなさが残る役者ぶりとはスケールがまるで違いました。
その意味でも観る価値ありの映画です。
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